2012年11月4日日曜日

大蛇の鱗三枚:狭山池に絡まる話

 種屋五兵衛と言うお爺さんが、ある日狭山池の堤を急いでいると、堤の松並木の陰から、絵から抜け出したかと思う様な美しい娘がすっくと五兵衛の行手に姿を現した。
 五兵衛は呆気に取られて立ち止まると、娘はしとやかに腰をかがめて、
「誠に済みませぬがこの池の中にある万能鍬を拾って下さる訳には参りますまいか」
と頼みこんだ。
 余り出し抜けの事なので、爺さんはびっくりして、その訳を聞くと娘は、
「実は妾はこの池に長らく住んでいるものでございますが、鍬の金気がありましては、安心して住んで居ることが出来ませぬ。御礼は必ずしますから、何卒助けると思って鍬を取り出して下さい」
と事情を述べた。
 五兵衛爺さんは正直でお人好であったから、早速取ってやることにしたが、満々たる水があっては取りにくいと言うと、娘はその事なら心配はないと言って、身を躍らせて池に入ると、不思議なことに池の水は忽ち干上がってしまった。
 そこで五兵衛爺さんは池へ入って鍬を取り出し堤へ上ると、池は又元の如く水が一杯になった。
 そして先刻の娘が再び姿を現し、厚く礼を述べ猶お礼の印だと言って、金色に輝く大蛇の鱗を三枚渡すと、そのままぱっと池の中へ飛び込んでしまった。
 五兵衛はその後、旱天で困るときはこの鱗を取り出して祈ると忽ち大雨が降るので、村人達から重宝がられたと言う。

松本壮吉「伝説の河内」歴史図書社 80頁~81頁

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