2012年11月5日月曜日

龍泉寺の伝説


 昔、富田林のはずれの山の上に、古い池があってな。その池に悪い龍が住みついて、村人をおそったり、家畜を喰い殺したり、木をなぎたおしたりして村に被害を与えていたんやて。
 そこで、時の大臣・蘇我馬子は、池のはたにお寺を建てて、村人の被害を救おうと心に誓い仏様に祈りつづけたんや。七日間、龍に呪いをかけ、祈りつづけて。龍を追い出そうとした。すると急に池の水が波立ち、空がかきくもり、のたうつ龍があらわれて、「われは、仏法に勝つ事あたわず。今よりここを立ち去ろうぞ。」
と苦しそうなうなり声を残し、地ひびきをたてて、空高く飛び去ってしもうたんやて。
 ところが、そのあと池の水が干上がってしまい、付近の井戸にも水が湧かずついに村もおとろえてしもうたんや。
 何年かたったある日、この村に、弘法大師がおとずれて、道にへたりこんでいる老人に、
「どうか、のどが乾いたので水を一杯下さらんか」
と、いうたところ、
「水を差し上げたいのはやまやまやが、あっちの井戸も、こっちの井戸も、水が湧かず困っていますのや」
と言うたので、大師がわけをたずねると、その老人は、みるみる牛頭天王の姿に変わり、
「大師よ、しばらくこの地にとどまり霊地を興せ。われもまた汝を助けよう。我はこの地の地主、牛頭天王なり。汝の来るを待つ事久し」
と言うと、大風が吹きサッと消えてしもうた。 
 大師は、池に向かって毎日毎日一生けんめい祈られたんや。すると七日目の夜、急に雨が瀧のように降り、山鳴りがして龍王があらわれた。
 夜も明けると雨は止み、池に清水が満々と満ちていた。そして村の井戸にも水が湧くようになり、村をうるおしたんや。大師は、この地に牛頭天王を村の鎮守としてまつられた。
 やがて、池のはたには、お寺やお堂が建てられ、龍泉寺という名がつけられたそうな。

注 龍泉寺は、旧東条村大字龍泉寺にある。

出典:富田林の民話・総集編 p212-213

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