むかしのこっちゃ。
富田林に「茂平どん」と呼ばれる金持ちがおったんや。
一人娘のお芳は村一番のきりょうよしやさかい、婿入りしたいという縁談話はぎょうさんあったが、隣村の旧家の息子金作を養子に迎えたんや。
二人はそりゃ仲のええ夫婦やったが、ある年の盆踊りの夜、金作がお君という娘に一目惚れしてからややこしゅうなったんやがな。
お君に心を移した金作は、お芳の止めるのもふり切って、お君のもとへ通うようになったんや。心配した茂平どんは金作を呼びつけて聞きよった。
『どうしてお前はお芳を嫌うのや。あんなお君のどこがええんや。お芳はお前を慕うとるのに』
『すんまへん』金作は泣いて詫びたんや。
『けどお芳といるとなんやしめつけられるようで、苦しいてたまりまへん。
今さら実家へも帰られへんし、この家に住めんと思うてますのや。家を出てお君と暮らしますよって、かんにんしておくなはれ』
金作が家を出た後、残されたお芳は、
『くやしい、に く い ・・・』
と、声をからして泣き叫び、手当たりしだい着物でも何でも引き裂くんや。茂平どんも手ェつけられへん。とうとうある晩、みんなが目ェ離したすきに、家をとび出してもうたんや。
『西山の黒子池に身を投げて、大蛇となって金作とお君にとり憑いてやるんや』
そう言うて池の中へ身を投げよった。
ある晩、金作はひやこものが、巻きつく気配で目が覚めてん。夢やないんや。ぬるっとひやこいもんが、ぞろリ、ぞろりと腹から首へと這い上がるんやがな。
『ひゃ~、助けてくれ~、蛇や、蛇や』
お君が灯りをつけると、蛇なんぞどこにもいてへん。けど眠れん夜の続く金作は骸骨のような体になって、息絶えたんや。ほんでからお君の方も、金作と同じようにうなされもって死んだそうや。
やがて一昔も過ぎたころ、若い衆の間で、
昔、富田林の茂平どんの娘
蛇になって男を殺した。
富田林の茂平どんの娘
髪が長うなる、じゃけんとなって
今は黒子の池の主
という唄が歌われるようになったというこっちゃ。
注:黒子池は、市内の神山町内にある。
出典:富田林の民話・総集編 p17-18
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