2012年11月12日月曜日

竜神信仰

竜神信仰 りゅうじんしんこう

古代中国の想像上の霊獣である竜に対する信仰であるが、日本における竜神信仰は中国の影響を受けながらも、その信仰対象は水神の表徴である蛇を神格化したものとしての竜である。竜神のほかに、竜王、竜宮とも呼ばれる。竜神は水神としての性格から農耕生産と結びつき、雨乞いが竜神の住むとされる川、沼、池、淵などで行われた。農耕儀礼のなかでも、竜蛇をかたどった藁縄で雨乞いや綱引き行事が行われている。また、この水神としての竜神は、雨や稲光をもたらす雷神の信仰とも結びつき、竜巻のときに天に昇ると考えられている。さらに、海の彼方にあって海を司ると考えられる海神も、水神信仰と結びついて、しばしば竜神の同意語として用いられる。漁民の間では、豊漁を祈って船を沖止めし、海神や竜宮の神を祀る竜神祭が広く行われ、浦祭、磯祭、潮祭とも呼ばれている。
 また、漁民の間では、金物を海に落とすことがタブーとなっているが、これは金物が蛇の魔力を避けるという信仰から、逆に蛇を怒らせる行為を慎むという意味であると考えられ、蛇神=竜神=海神という図式が背景にあるといえる。この海神と人間との交渉というモティーフは、「浦島太郎」や「竜宮童子」をはじめ昔話のなかにも多くみられ、富や宝は海の彼方からもたらされるという信仰がその根底に流れている。
(岩井 洋)

國學院大學日本文化研究所「〔縮刷版〕神道辞典」弘文堂 P344

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